― 仏陀と青年の対話 ―1話 〜本当の自分を生きる道〜

自分を取り戻す

現代の我々の悩みを仏陀の視点からどの様に捉え解釈するか。
会話形式に綴ってみた。

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ある日、ひとりの青年が、林の中に座す仏陀を訪ねた。

目を伏せ、迷いの影をたたえたまま、青年は口を開いた。

「師よ…私は、今の自分が“本当の自分”なのか、分からなくなってしまいました。」

仏陀は静かに、彼の方へ目を向けやさしく問うた。

「では、お前は誰を生きておるのか?」

青年は答えに詰まり、視線を落とした。

「…人の期待や、社会の役割…親の言葉や、誰かの価値観に合わせて生きてきました。
今までそれが自分だと思っていました。
けれど最近…心が、どこかで“違う”と叫ぶのです。」

仏陀は頷き、足元に咲く小さな花を指さした。

「この花を見よ。
誰かのために咲いているか?
評価されるために、その形を選んでいるか?」

「…いいえ。」

「花は、ただ花として咲いている。
自らの命のままに。
それが自然であり、真のあり方だ。
だが人は、他の誰かの“花”になろうとしてしまう。
そして、自分の“根”がどこにあるかを忘れてしまうのだ。」

青年は、はっとしたように顔を上げた。

「では、私は…誰かになろうとして、本当の自分を…捨てていたのですか?」

仏陀は静かに答える。

「捨てたのではない。
ただ、奥にしまっていただけだ。
本当の自分は消えぬ。
だが、その声を聴くには――静けさと、誠実な対話が必要だ。」

「対話…ですか?」

「まずは他者ではなく、自らとの対話だ。
『私は何を感じているのか?』
『私は何を望んでいるのか?』
その問いかけが、お前を“お前自身”の道へ戻す。」

青年の目に、わずかな光が宿った。

「では…本当の自分は、問いの中で目覚めるのですか?」

仏陀は微笑んだ。

「そうだ。
答えを外に探す者は、いつまでも彷徨う。
だが、自らに問い、耳を傾ける者は――
やがて、真の自分に出会うだろう。」

林の中に、風が吹き抜けた。
葉のこすれる音が、まるで仏陀の言葉をなぞるように、優しく響いた。

その日、青年は何も解決していなかった。
けれど、
彼の胸の奥に、静かな灯がともった。

そして彼は、歩き始めた。
誰かの道ではなく、
“自分”という名の、まだ見ぬ道を。

つづく・・・

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