〜仏陀と青年の対話 〜 「目覚めの道 ― 第3話:本当の声が出た日」
少しずつ、自分自身の内にある真実の声が、外の世界へとにじみ出すような、そんな静かな一歩の物語です。
目覚めの道 ― 第3話:本当の声が出た日
数日が経った。
青年は以前と同じように過ごしていた。
父に言われた通りに動き、
周囲の期待に応えるように振る舞い、
微笑み、礼儀正しく、誰からも好かれる“良き青年”を演じていた。
けれど、ふとした瞬間に――
胸の奥から、波のように押し寄せてくるものがあった。
「これが…私の人生なのか?」
「私は…どこにいる?」
その日、村の井戸端で、幼馴染の少女・カーリと再会した。
カーリは遠くの町で働きながら、自由に生きていた。
誰に遠慮することもなく、好きなことを語り、笑い、時に泣き、喜怒哀楽のままに生きていた。
「あなた、変わってないね」
とカーリは笑った。
「そうか?」と青年は微笑んだが、
心のどこかがズキリと痛んだ。
「うん。でも、何か隠してる感じがする。
…本当は、言いたいことあるんじゃない?」
カーリのその言葉に、胸の奥がかすかに揺れた。
一瞬、迷いが生まれた。
でも、気づけば青年の口から言葉がこぼれていた。
「……怖いんだ。“本当の自分”を見せたら、
みんなが離れていくんじゃないかって。」
言ってしまった――
その瞬間、体の奥がふっと軽くなった気がした。
カーリは、優しく頷いた。
「そう思ってる人、きっとたくさんいる。
でも、あなただけでも、あなたの味方でいなきゃ。
誰よりも、あなたがあなたを裏切ったら、
あなたはどこに帰ればいいの?」
その言葉が、静かに青年の心に染み込んでいった。
帰り道、青年はまた林の入口に立った。
そこには今日も仏陀の姿はなかった。
けれど、あの日と同じように、風が優しく頬を撫でた。
仏陀の声が、また心の中で響くようだった。
「よく聴いたな。お前の“本当の声”を。」
青年は深く、静かに息を吐いた。
そして、自分の胸に手をあてて、小さく呟いた。
「…私は、ここにいる。」
それは大きな叫びではなかった。
誰にも届かない、かすかな声だったかもしれない。
でも、それは確かに“自分”が自分に向かって発した
はじめての、本物の言葉だった。
その夜、彼の中の灯は、ほんの少し大きくなった。
まだ頼りなく揺れてはいたが、
確かにそこに、あたたかな光があった。
次回は
第4話:父との沈黙、そして小さな決意
青年が“本音を知ってしまった後”に、父との間で揺れる姿、
そしてほんの小さな一歩を踏み出す瞬間を描きます。
コメント