現代の我々の悩みを仏陀の視点からどの様に捉え解釈するか。
会話形式に綴ってみた。
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ある日、ひとりの青年が、林の中に座す仏陀を訪ねた。
目を伏せ、迷いの影をたたえたまま、青年は口を開いた。
「師よ…私は、今の自分が“本当の自分”なのか、分からなくなってしまいました。」
仏陀は静かに、彼の方へ目を向けやさしく問うた。
「では、お前は誰を生きておるのか?」
青年は答えに詰まり、視線を落とした。
「…人の期待や、社会の役割…親の言葉や、誰かの価値観に合わせて生きてきました。
今までそれが自分だと思っていました。
けれど最近…心が、どこかで“違う”と叫ぶのです。」
仏陀は頷き、足元に咲く小さな花を指さした。
「この花を見よ。
誰かのために咲いているか?
評価されるために、その形を選んでいるか?」
「…いいえ。」
「花は、ただ花として咲いている。
自らの命のままに。
それが自然であり、真のあり方だ。
だが人は、他の誰かの“花”になろうとしてしまう。
そして、自分の“根”がどこにあるかを忘れてしまうのだ。」
青年は、はっとしたように顔を上げた。
「では、私は…誰かになろうとして、本当の自分を…捨てていたのですか?」
仏陀は静かに答える。
「捨てたのではない。
ただ、奥にしまっていただけだ。
本当の自分は消えぬ。
だが、その声を聴くには――静けさと、誠実な対話が必要だ。」
「対話…ですか?」
「まずは他者ではなく、自らとの対話だ。
『私は何を感じているのか?』
『私は何を望んでいるのか?』
その問いかけが、お前を“お前自身”の道へ戻す。」
青年の目に、わずかな光が宿った。
「では…本当の自分は、問いの中で目覚めるのですか?」
仏陀は微笑んだ。
「そうだ。
答えを外に探す者は、いつまでも彷徨う。
だが、自らに問い、耳を傾ける者は――
やがて、真の自分に出会うだろう。」
林の中に、風が吹き抜けた。
葉のこすれる音が、まるで仏陀の言葉をなぞるように、優しく響いた。
その日、青年は何も解決していなかった。
けれど、
彼の胸の奥に、静かな灯がともった。
そして彼は、歩き始めた。
誰かの道ではなく、
“自分”という名の、まだ見ぬ道を。
つづく・・・
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