〜仏陀と青年の対話 〜 目覚めの道 ― 第7話(完結):仏陀の問い ― 生きるとは、何を愛するか

世界観

静かな旅の終わりが、ゆっくりと近づいてきます。
けれどそれは、終わりではなく――
本当の“始まり”だったのかもしれません。

目覚めの道 ― 第7話:仏陀の問い ― 生きるとは、何を愛するか

再び、あの林。
青年は、深く呼吸をして、仏陀のもとに歩を進めた。

仏陀はそこにいた。
まるで、ずっとそこにいたかのように。
変わらぬ姿で、穏やかに、静けさとひとつになっていた。

青年は、仏陀の前に座り、静かに言った。

「私は…
やっと“私”を思い出しました。
誰かの期待でも、社会の声でもなく。
あの、小さな頃の私のまなざしを…。」

仏陀は目を開け、微笑んだ。

「それは尊い一歩だ。
そして、最後にひとつ、問いを贈ろう。」

青年は、目を伏せる。

仏陀の声が、深く、静かに響いた。

「あなたは、この命で――
いったい何を“愛したい”のか?」

青年は、はっとした。

ただ“何をしたいのか”ではない。
ただ“誰かのため”でもない。

「何を、ほんとうに愛したいのか。」

それは、思考ではなく、心に直接響く問いだった。

青年は、言葉を探した。
でも、すぐには出てこなかった。

仏陀は続けた。

「人は、愛するもののために生きる。
愛することは、命を注ぐこと。
だからこそ、
何を愛するかを見つけることが――
“自分を生きる”ということなのだ。」

青年の胸が、熱くなった。

浮かんできたのは――
人。
自然。
言葉。
音。
感じること、そのすべて。

「私は…
“命”そのものを愛したいんです。
悲しみも、喜びも、
誰かの心も、自分の未熟さも。」

そして、ふと笑った。

「その愛し方が、私の生き方なんですね。」

仏陀は、目を閉じ、静かに頷いた。

「それが“真の自己”の目覚めだ。」

風が吹いた。
林の中で、葉が舞った。

青年の中に、確かな灯がともった。

それは、誰からも奪われることのない――
“自分”という光。

― そして、旅は続く ―

青年はその後、自分の道を歩き始めた。
仏陀に会いに行くことは、もうなかった。

けれど、いつも“内なる仏陀”が、
静かにそこにいる気がした。

沈黙の中にある真実。
自分との対話。
そして、命を愛するということ。

目覚めの道は、外にはなかった。
すべては、最初から自分の中にあったのだ。

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