目覚めの道 ― 第2話:声を飲み込むとき ―

世界観

前回の続きです。

http://uzunami-torus.com/―-仏陀と青年の対話-―1話-〜本当の自分を生きる/

翌日、青年が日常に戻り、さっそく「試されるような瞬間」に出会います。

目覚めの道 ― 第2話:声を飲み込むとき ―

林をあとにした青年は、村へ戻ってきた。
心には仏陀の言葉が、静かな灯のように揺れていた。

「まずは自らとの対話だ――」

その言葉を胸に、青年は自分の心を観ようと努めた。

だが日常は、思ったよりも容赦がなかった。

夕暮れ、家に戻ると、父が待っていた。

「今日、村の会合でお前の話が出た。長の跡継ぎとして、来月から正式に前に立てとのことだ。
もう、迷っている時期ではないぞ。期待している。」

青年の心がざわついた。

――“またか…”

ずっと、「期待される自分」を生きてきた。
長の家に生まれた以上、それが当然。
それを拒めば、家族を傷つける。
皆を失望させる。

青年は、胸の奥で叫ぶ声を聴いていた。

「違う…私は、それを望んでいない…」

けれどその声は、小さくて、かすれていた。
父の言葉の重さに、心が押し潰されそうになる。

そのとき、ふと仏陀の言葉が蘇った。

「お前は、誰を生きておるのか?」

青年は唇を噛んだ。
言いたいことが、喉まで出かかった。
でも、言えなかった。
言葉にすると、自分が崩れてしまいそうで――

青年は、うなずいてしまった。

「…はい。分かりました。」

父は満足げに頷いた。
だが、青年の心は静かに泣いていた。
言葉を飲み込むたびに、
“自分”が奥へと遠ざかっていく。

その夜、青年は一人、林の入口に立っていた。

仏陀の姿はなかった。

だが、木々の間からそよぐ風が、まるで囁くように響いていた。

「お前は、また“誰か”を生きたのだな」

青年は静かに目を閉じた。
そして心の中で、自分に問いかけた。

「私は、本当はどうしたかったのか?」
「なぜ言えなかったのか?」
「怖かったのは…何だったのか?」

問いは答えを求めなかった。
ただ、心の奥の声をそっとすくい上げるように、そこに在った。

その夜、彼ははじめて、
自分自身と“ほんの少し”語り合った。

それは、わずかに揺れる灯。
けれど、確かに彼の内側で、
何かが目覚め始めていた。

次回は、「第3話:本当の声が出た日」。
青年が初めて、ほんの少しだけ“自分の声”を外に向けて発した瞬間を描きます。

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