今回のテーマは、
「沈黙の中にある真実」
言葉にならない思いと、言葉にしない選択。その違いに、仏陀がそっと光を当てます。
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目覚めの道 ― 第5話:仏陀、再び現る ― 沈黙の意味を問う
青年は、あの林の入口に向かっていた。
もう、足は迷わなかった。
心の奥で“誰か”が呼んでいるような、不思議な感覚に導かれるままに。
木々の間を抜けたその先――
そこに、仏陀が座していた。
変わらぬ姿。
穏やかで、何も語らぬその姿は、
まるで“無”そのもののように、風景に溶け込んでいた。
青年は、静かに座った。
ふたりの間には、言葉のない時間が流れる。
しばらくして、青年がぽつりと口を開いた。
「…私は、少しだけ言えました。
父に、“今すぐには従えない”と。」
仏陀は頷いた。
「けれど、それを伝えた後、
言いようのない不安に包まれたのです。」
仏陀は、ゆっくりと目を開け、青年を見つめた。
「それは、“沈黙”が生まれたからだ。」
青年は戸惑いながら尋ねた。
「沈黙が…怖いのです。
父が何も言わず、
私も言葉を探せず…
その間に広がる“何か”が。」
仏陀は、静かに微笑んだ。
「沈黙には二つある。
一つは、恐れから生まれる沈黙。
もう一つは、真実を待つ沈黙だ。」
青年は、眉をひそめた。
「真実を…待つ沈黙?」
仏陀は頷き、語った。
「言葉を重ねれば、理解が深まると思う者もおる。
だが、真に深まる理解は、沈黙の中に芽生えることもある。
沈黙は、心と心が向き合う“余白”だ。
そこに恐れを抱くか、信を置くか――それが違いを生む。」
青年の心に、何かが落ちた。
「私は…恐れていたのかもしれません。
父が何を思っているのか、わからなくなることを。
でも…その沈黙もまた、
“私と向き合うための時間”だったのかもしれない。」
仏陀は、目を閉じたまま答えた。
「恐れるな。沈黙は、魂の声が育つ場所。」
風が吹いた。
木々がざわめき、光が差し込んだ。
沈黙。
それは、語るよりも深く、人と人をつなぐものかもしれない。
その日の帰り道、青年はふと空を見上げた。
沈黙の中にあった、父の眼差しを思い出す。
言葉はなかった。
けれど、その奥に――たしかに何かが、あった気がする。
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次回は
第6話:心の声に耳をすます ― 静寂の先にある答え
青年が“外の声”ではなく、“内なる声”に耳を澄ませ始める。
自分と世界の関係が、少しずつ変わり始める回になります。
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